希少疾病用医薬品等の指定制度の改正(2024年1月より)

ドラッグ・ラグ/ドラッグ・ロスの解消や創薬力強化を目指して薬事規制関連の議論を進めるために、「創薬力の強化・安定供給の確保等のための薬事規制のあり方に関する検討会」が2023年5月~2024年3月に開催されてきました。

この検討会の議論を踏まえて実際に対応がされた事項の1つとして、「希少疾病用医薬品の指定のあり方」がありました。この議論を受けて、オーファン指定の範囲拡大及び早期化の方向に舵が切られました

改正の内容

以下の通知に基づき、2024年1月16日より改正された希少疾病用医薬品等の指定制度の運用が開始されています。

今回の指定基準の改正の大きなポイントは以下の2点です。

1.対象患者数
患者数を限定しようとする「輪切り」に対する考え方が明確化されました。

医学薬学上の明確な理由なしに、「重篤な」等の接頭語、ただし書き等を追加することによって、患者数を5万人未満として計算するいわゆる「輪切り」は(引き続き)認められません。

一方で、年齢層(小児を含む)、治療体系、治療ライン、リスク分類、投薬の必要性等を含め、医学薬学上の適切な根拠に基づき、高いアンメットニーズがありつつも開発が進んでいない範囲に限定した対象疾患に対して製造販売をしようとするのであれば、当該疾患については「輪切り」には該当しない旨が明示されました。

2.医療上の必要性
対象疾患の重篤性等の内容の明示化に加えて、従前の(改正前の指定基準であった)「既存の医薬品等と比較して、著しく高い有効性又は安全性」に対する考え方及び例示が追記されました。


なお、合わせて「優先審査等の取扱いについて」の一部改正について(2024年1月16日付け、医薬品審査管理課長通知)「再審査期間の取扱いについて」の一部改正について(2024年1月16日付け、医薬品審査管理課長通知)も発出されています。

前者の通知は、オーファン指定品目であっても優先審査該当と優先審査非該当の品目が発生することから、その内容を反映した運用とするための改正になります。後者の通知は、記載整備とともに小児用の開発に関する再審査期間を明確化するための改正になります。

所感

今回の改正により、開発中の品目について、より幅広く、また、より早期にオーファンの指定を受ける可能性が出てきたことは、日本での開発を促すインセンティブとなりうる施策ではあります。

一方で、希少疾病用医薬品について、オーファン指定による優遇措置である優先審査及び優先相談の対象は「従前の希少疾病用医薬品の指定の基準を満たすものに限るものとする」としたことは、以下の点から疑義があります。

  1. 限定した理由が不明瞭検討会の報告書において、「優先審査品目の増加に対応するためには(PMDAの)さらなる体制強化が必須」なので限定した対応とする旨が述べられています。しかしながら、審査に必要なFTE自体は優先審査と通常審査で変わらないはずです。なぜなら、優先審査と通常審査で審査すべき内容に違いはないからです。通常審査では12か月、優先審査では9か月の審査期間が目標となるため、審査の期間は短くなり、したがって、必要なリソースの集中度は異なることは容易に想像できます。しかし、必要なリソース量は変わらないはずであり、科学的な議論を行う審査において、変わってはならない点です。したがって、報告書に記載された理由は理由となっておらず、また、MHLW/PMDAから検討会を通してこの点の明確な説明はありませんでした。ただし、オーファン指定の範囲拡大、早期化により、当面、オーファン指定に関する相談が急増し、MHLWを含めてリソースがひっ迫する可能性は高いです。
  2. 従前の指定基準が不明瞭:今回の改正は、従前の指定基準では明確ではないことを踏まえて対応したにもかかわらず、引き続き不明確な基準に基づき、優先品目か優先非該当品目かを判断するというのは自己矛盾を含んでいます。特に、従前の「既存の医薬品等と比較して、著しく高い有効性又は安全性」に対しては基準該当性の判断が不明瞭であったところ、今回の改正により考え方と例示を示したとしても、不明瞭さが残ることになります。

この限定は、1年後を目途に見直しが検討される旨が上記通知には明記されていますので、その時点でこのような限定がなくなるようフォローアップされることを期待します。

2024年度の薬価算定基準から、迅速導入加算が導入されました。この加算は「ドラッグ・ラグ/ドラッグ・ロスの解消に向けた革新的新薬のイノベーションの適切な評価」を目的としたものです(中医協資料より)。

迅速導入加算の要件の1つに「医薬品医療機器等法における優先審査品目」が設定されており、希少疾病用医薬品に指定された品目であっても、(旧基準に該当しない)優先非該当品目の場合はこの加算の対象とはなりません。ドラッグ・ラグ/ドラッグ・ロスの解消といいつつ、MHLW内でチグハグな対応となっています。

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