使用成績調査の議論

ドラッグ・ラグ/ドラッグ・ロスの解消や創薬力強化を目指して薬事規制関連の議論を進めるために、「創薬力の強化・安定供給の確保等のための薬事規制のあり方に関する検討会」が2023年5月~2024年3月に開催されてきました。

この検討会の議論を踏まえて実際に対応がされた事項の1つとして、「製造販売後に実施する使用成績調査等のあり方及びリアルワールドデータの活用のあり方について」がありました。

2024年4月24日の検討会の報告書では、26ページから関連する内容が記載されており、具体的な対応はこれからとされています。

また、2025年薬機法改正に向けた議論においても、使用成績調査を含む市販後安全対策に関する見直しは議論される想定となっており、引き続き議論が行われることが想定されています。

一方で、検討会で示された対応の方向性として注目すべき点がありますので、現時点で取り上げます。

全例調査の対象について

報告書で明確に方針が示されましたが、「単に日本人の治験の症例数が少ないことのみを理由とした全例調査は、原則として行わないこと」とされました。

これは、非常に大きな改善方針が示されたと考えます。

日本独自の仕組みである全例調査(市販後に薬剤が使用されるすべての患者を登録する調査)は、医療機関及び製造販売業者に相応の負担が発生する一方で、何を目的とするのか、実効性があるのか、という観点から長らく不明瞭な運用となっていました。

そして、PMDAから、日本人症例が少ないのでとりあえず全例調査を実施するようにという指示が入っていたことが、今回の議論の中で明確に認識されました。

今回の検討会での議論を踏まえて、適切な使用成績調査の設定となることが大いに期待されます。

使用成績調査に関するリサーチクエスチョンの設定

こちらも、全例調査の対応方針同様、よい改善の方向性が示されました。

全例調査も含まれますが、「単に治験の症例数が少ないことや一部の患者集団における情報が不足していることのみ」をもって使用成績調査をPMDAが要求することは適切でないことが明確に示されました。

これまで、PMDAは、ややもすると、再審査期間を付与するのだからとにかく使用成績調査を求めることがありました。その結果、上述のような適当ではないリサーチクエスチョンに基づく調査が製造販売業者に課されている状況となっています。

検討会での対応方針が明示的に示されましたので、PMDAのマインドセットが変わり、より合理的に使用成績調査が実施される方向に進むと考えられます。

市販直後調査

こちらは、今回の検討会では議論が不十分だったと感じています。

市販直後調査も、全例調査同様、日本固有の市販後安全対策です。PMDAのホームページに解説がありますが、新医薬品の特性に応じ、販売開始から6ヵ月間について、特に注意深い使用を促し、重篤な副作用が発生した場合の情報収集体制を強化することを目的とした対応になります。

具体的には、以下の対応により、製造販売業者から医療機関に頻度高く働きかけることで安全性情報を収集する調査になります。(関連通知より

  • 製造販売業者は、MR等による面談等により、医療機関に対して、市販直後調査の対象である旨の説明、適正使用や副作用の速やかな報告の依頼を行う
  • 製造販売業者は、医療機関に対して、納入開始後2か月間は、おおむね2週間以内に1回の頻度で、その後も適切な頻度(おおむね1か月以内に1回)で、協力依頼等を行う
  • 製造販売業者は、市販直後調査の計画書及び実施報告書(期間終了後2か月以内)を作成し、PMDAに提出する

今回の検討会の報告書においては、「市販直後調査について、これまで以上に重要度が増していくことから、MR の人数が少なくなる中、医師が市販直後調査に協力しやすいような対応について、製薬業界において検討を行うことが重要」との意見が取り上げられてます。

したがって、検討会(MHLW)としては、市販直後調査は、引き続き重要な安全対策として位置付けていくことを考えているようです。


しかしながら、個人的には、市販直後調査がそもそもどの程度安全対策(安全性情報の収集)に資するのか、しっかり検証されるべきではないかと考えています

意見の中でも触れられていますが、MRを活用するような対応、また、製造販売業者からのプッシュ型の依頼、がどれほど安全性情報の収集に効果があるのか疑問です。

市販直後調査で求められる対応の有無によって、安全性情報の報告の頻度がどの程度違ってくるのかは、試行的に検証することは可能だろうと考えます。

そのような検証をもって、そもそも本当に市販直後調査という仕組みがこれからも必要なのか、また、必要な場合もどのようなやり方が安全性情報をより適切に収集することができるか、を産官学に加えて、患者さんからの視点も入れて議論すべきです。

安全性情報の検出には、患者さんと医療機関の理解、協力が不可避であることから、そのような方々が積極的に関与する/できる仕組み・仕掛けを設定することが必要です。そして、そのような仕組み・仕掛けは、少なくとも、今のやり方の市販直後調査ではないです。

したがって、全例調査や使用成績調査の議論のように、市販直後調査も、そもそものあり方から、より深い議論をする時期に来ていると考えています。

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