日本人第I相試験の対応の概説

ドラッグ・ラグ/ドラッグ・ロスの解消や創薬力強化を目指して薬事規制関連の議論を進めるために、「創薬力の強化・安定供給の確保等のための薬事規制のあり方に関する検討会」が2023年5月~2024年3月に開催されてきました。

この検討会の議論を踏まえて実際に対応がされた事項の1つとして、「我が国の承認審査における日本人データの必要性の整理(国際共同治験に参加する場合の日本人第Ⅰ相試験の必要性)」がありましたので、ここでまとめておきます。

どのような対応がなされたのか

以下の通知に発出により、日本人第Ⅰ相試験の必要性に関する現時点の考え方があらためて整理、提示されました。

これらの通知とともに、この検討会の報告書の該当箇所(11ページから)を確認すると、今回の対応がどのような意図を持ったものか理解が深まります。

まず、今回の対応は「海外での臨床開発が先行した場合を想定したもの」となっています。報告書にあるように検討会(MHLW)は「創薬力向上の観点からは、第Ⅰ相試験の段階から日本も開発計画の議論及び臨床試験に参画することが望ましい」という立ち位置にいます。

その想定があった上で、通知において、まずは基本的考え方として「日本が国際共同治験に参加する前に利用可能なデータから日本人被験者の安全性・忍容性のリスクが説明でき許容・管理可能かを検討した上で必要と認められる場合を除き、原則として、日本人での第Ⅰ相試験を追加実施する必要はない」ことを示しています。この点は、(報告書にもある)製薬業界の意見を汲んでの対応であろうと考えられます。

その後に、個別品目での判断の考え方を示していますが、日本人第Ⅰ相試験の要否の最終判断は個別に行われることを確保しつつ、「承認申請までの間に、薬物動態・薬力学の国内外差の検討を行うこと」の重要性の念押し、「国際共同治験において、日本人に対する追加の安全確保策を設定する」可能性を明示しています。

したがって、海外での臨床開発が先行した場合に、日本人第Ⅰ相試験を不要する方向で検討が可能であるが、最終的には個別品目ごとに判断、また、不要の場合でも日本での追加の安全確保策が必要となる可能性あり、ということが提示されたことになります。

今後の(個人的)見立て

検討会の議論及び通知発出を踏まえて日本人第Ⅰ相試験の要否の運用が実際に変化するには、引き続き、時間を要するのではないかと考えています。

なぜなら、PMDAの考え方/対応に変化が生じるまでに時間を要すると想定しているからです。報告書にもあるように、PMDAは、日本人第Ⅰ相試験の要否の運用は(今回の検討会での議論、対応に関係なく)これまでも柔軟に対応してきているというスタンスです。したがって、今回の通知を受けたからといって、すでに十分な対応ができていると考えている者がそう簡単に変化するのは難しいのではないかと思います。

また、実際、国際共同治験に参加する日本人の安全性確保のためのゲートキーパーとして、PMDAの存在は不可欠であり、引き続き、慎重な判断に傾きやすいことが考えられます。

加えて、日本人第Ⅰ相試験を不要と判断した場合であっても、PMDAが指示/助言を行う「日本での追加の安全確保策」が合理的なものになるかも運用を注視していく必要がありそうです。

一方で、現時点でドラッグ・ラグ/ドラッグ・ロスとなっている品目のみならず、企業規模に関係なく開発者側からは、「海外での臨床開発が先行した場合」として日本人第Ⅰ相試験を不要としてPMDAに相談する事例が増えるのではないかと考えています。

海外又は日本を含むグローバルで開発を行う場合、(他国ではなく)日本で早期開発を行うメリットや必要性がない/低ければ、海外での臨床開発が先行されるからです。

メリットに変化がない一方で、今回の通知により、少なくとも、日本での早期開発の必要性が低下する可能性が出たことから「日本は国際共同治験からの参加でよいだろう」という方向に議論が進みやすくなったと考えています。追加の安全確保策(のPMDA指示/助言の合理性)とのバランスは考慮されるのでしょうが。

今回の通知は、「海外での臨床開発が先行した場合」と限定しつつ、PMDAを含む関係者の顔を立てる形での玉虫色的なもの/個別運用の裁量を残すものになっていますが、緩やかではあろうものの、日本人第Ⅰ相試験を不要としようとする流れを加速させる対応になったと考えます。日本の創薬力確保、産業育成、国力向上を考えると、今回の方向性が本当によかったのかは疑問が残りますが。

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