レケンビ、皮下注射製剤の米国申請

2024年5月15日付けでエーザイから標題のプレスリリースが出ました。また、日経新聞で本件の記事が出ています。

レケンビ(一般名:レカネマブ)は、「アルツハイマー病による軽度認知障害及び軽度の認知症の進行抑制」として米国や日本で承認されています(2024年5月時点)。日本では承認前から、レケンビが高額かつ多数の患者が対象になる可能性があるとして中医協で議論がされるような、社会的インパクトの大きい品目となっています。

今回の皮下注射製剤の申請は米国ですが、日本を含め世界各国で同様の申請が行われるはずです。

ここでは、(エーザイが描いている)レケンビの価値増大化戦略を整理しておきます。

レケンビの価値増大化戦略

2024年3月8日付けのインフォメーションミーティング用資料にエーザイが考えている価値増大化戦略が示されています。この戦略は、グローバル戦略なので米国を見据えた話も出てきていますが、特に、以下の3点が価値増大化に大きな影響を与えるとされています。

  • 皮下注射(SC)製剤の開発
  • 血液バイオマーカーの普及
  • より早期患者への適応拡大

皮下注射(SC)製剤の開発

まさに今回、米国での申請を達成した内容になります。

2024年5月時点で、米国や日本で承認されている剤型は静脈注射(IV)です。2週間に1回、1時間かけてのIV投与が必要になります(レケンビの添付文書より)。
上記エーザイのプレスリリースでは、4週間に1回のIV投与も現在、米国では承認審査中とのこと。

IV投与では、医療機関での投与が不可避かつ投与時間も長いために、患者さんの治療負担は大きくなります。

今回申請に至ったSC製剤は、1週間に1回の投与が予定されています。SC製剤であれば、自宅での投与も可能かつ投与(注射)も一瞬で終わります。この状況であれば、投与ごとの通院は不要であり、1か月に1回又はそれより少ない通院頻度での治療も可能となります。したがって、患者さんが治療を受けやすく、また、治療を継続しやすくなるでしょう。

ここまでは、上記プレスリリースと日経新聞の記事で触れられています。しかしながら、インフォメーションミーティング用資料でもう1つ大事なポイントが示されています。

それは、SC製剤(+後述の血液バイオマーカーの普及)により、専門医(病院)だけでなく、かかりつけ医(診療所)も(手軽に)レケンビを処方できるようになることです。

これにより、患者さんのレケンビへのアクセスは向上する=レケンビの処方数が増加する、ことが想定されます。

血液バイオマーカーの普及

2024年5月時点では、レケンビでの治療を行う前に、アミロイドPET、脳脊髄液(CSF)検査によりアミロイドβ病理の所見を確認する必要があります。こちらが、患者アクセスが限定的となる一因となっています。

PET検査は、放射性医薬品を使うため、検査ができる医療機関が限定的になります(外国では高額になることもネック)。また、CSF検査は、採血による血液検査と比べて、侵襲性が高く、患者さんがためらう可能性があります。

この点は、レケンビの薬価算定時の資料にも言及があり、レケンビ投与の推定患者数に影響を与える要素とされています。

そこで、エーザイは、血液バイオマーカーの普及に取り組んでいます。血液バイオマーカーの詳細は触れられていませんが、「認知症に関する脳脊髄液・血液バイオマーカー、APOE検査の適正使用指針」では今後可能性のあるバイオマーカーに言及があります。血液中のアミロイドβ、リン酸化タウ、神経フィラメント軽鎖といった候補があるようですが、アミロイドPET検査やCSF検査の代用となる段階には至っていません。

エーザイの戦略では、このような血液バイオマーカーをまずは患者の初期スクリーニング用に活用することを想定しています。血液バイオマーカーをまず測定して、アミロイドPET検査やCSF検査を受ける対象者を絞ることで、より適切な患者さんにこれらの検査を受けてもらうようにする、また、検査数に限りがあることに対処する、ということを考えています。

そして、次のステップとして、血液バイオマーカーによるアルツハイマー病の確定診断が可能となることを目指しています。血液バイオマーカーで確定診断が可能となると、検査ができる医療機関、検査を受ける患者数ともに格段に増え、結果、レケンビの処方数が増加することが見込まれます。

血液バイオマーカーは、スクリーニング用で2024年度、確定診断用で2026年度を目指しているようですが、スクリーニング用途の実臨床上の位置づけ、確定診断用のバイオマーカーの妥当性といった点は議論が難しいところであり、こちらは(も)紆余曲折があると考えます。

より早期患者への適応拡大

現在の軽度認知障害(MCI)から軽度認知症の患者さんに加えて、より早期の状態であるPreclinical ADにレケンビの適応を拡大しようとしています。

より早期になれば潜在的な患者さんの数も増えますので、全員がレケンビ投与の対象とならないにしろ、相当数の患者さんにレケンビが(追加で)投与される可能性があります。

まとめ

社会的インパクトのあるアルツハイマー病治療薬のレケンビですが、皮下注射(SC)製剤の開発、血液バイオマーカーの普及、より早期患者への適応拡大といった対応を通じて、より多くの患者さんへの投与が目指されています。

コメント

タイトルとURLをコピーしました