レケンビの薬価算定及び費用対効果評価

2024年5月15日付けでレケンビの皮下注射(SC)製剤が米国で申請されました。そちらに関連しての記事を書きましたが、ここではレケンビの薬価算定及び費用対効果評価に関する情報をまとめておきます。

レケンビについては、高額となる可能性があったこと、対象患者が相当数に上る可能性があったこと、から医療財政上の影響を含めて社会的インパクトが大きいと想定されました。その結果、レケンビの承認前から中医協において、レケンビの薬価算定及び費用対効果評価について議論が行われていました。

最終的には、2023年12月13日の中医協総会でレケンビの薬価算定及び費用対効果評価の議論が行われ、2023年12月20日の薬価収載となっています。

なお、今回の議論の対象となったレケンビの効能・効果は「アルツハイマー病による軽度認知障害及び軽度の認知症の進行抑制」です。

レケンビの薬価算定

こちらに算定の資料がありますが、別紙までつく特別対応です。原価計算方式による薬価算定で、有用性加算(I)45%で決着しています。ピーク時の投与患者数3.2万人、売上986億円です。

エーザイは当初、アルツハイマー病ではない中枢神経系の薬剤を引き合いに出し、類似薬効比較方式を提案しましたが、該当する類似薬はないとして厚労省側から否定されています。

これは珍しい事例です。大きな方向性として、厚労省は、できるだけ原価計算方式を避け、類似薬効比較方式の可能性を模索します。一方で、申請者側は、類似薬に相当しそうな薬価次第のところはありますが、新薬が長期間出ていない等の状況であれば、原価計算方式による希望薬価を狙いにいくことが多々あります。したがって、レケンビでは逆方向での交渉が起こっています。

ただ、類似薬の設定の仕方は、厚労省指摘のように相当無理がありますし、厚労省の説明に理があるように思えました。


加算率については、エーザイから不服意見が出ています。エーザイは、疾患が重篤であること(①-c)、休薬後の効果の維持及び医療費や介護費等への影響(②-1a)のポイントも追加すべきとの主張でした。

①-c:【臨床上有用な新規の作用機序】a又はbを満たす場合であって、標準的治療法が確立されていない重篤な疾病を適応対象とする
②-1a:【類似薬に比した高い有効性又は安全性(高い有効性又は安全性の内容)】臨床上重要な有効性指標において類似薬等に比した高い有効性が示される

疾患の重篤性については、レケンビの対象患者が早期の疾患を対象としているとして却下されています。

休薬後の効果の維持については、臨床試験での示唆レベルであること、他の項目の評価に含まれるとのことで却下されています。

医療費や公的介護費等の総費用については、これまでの薬価算定で評価対象としていないこと、主張の妥当性が判断できないとして、反映されませんでした。

却下された内容については、いずれも厚労省側の整理に一理あるとも考えられます。最後の介護費等の社会的価値については、論文化を含めてエーザイが早い段階から各所でアピールし、外堀を埋めてきた内容になります。今回の薬価算定では却下されましたが、薬価算定に対して一石を投じた内容になっています。

レケンビの費用対効果評価

H1として費用対効果評価の対象となっています。H1は、有用性系加算が算定されており、かつ、ピーク時市場規模(予測)が100億円以上、の場合のため、レケンビが該当することは議論の余地はないです。

一方で、今回の費用対効果評価の中身は、特例対応となっています(資料はこちら)。「費用対効果をより活用していく観点から」、評価結果を加算分ではなく薬価全体に適用すること介護費用の有無による分析を行うこと(エーザイが介護費用を含めることを希望した場合)、とされました。

費用対効果評価を薬価全体に適用することは、業界が反対してきたものになります。レケンビの事例を参考に、費用対効果評価の範囲拡大(加算分から薬価本体へ)の議論が活発化される可能性があります。

また、介護費用については、薬価算定での評価は却下された一方で、費用対効果評価に取り入れられました。このような形での社会的価値の反映が望ましいのかは、今回の事例に基づき中医協での議論が進む可能性があります。

まとめ

レケンビの薬価算定及び費用対効果評価の対応は、これらの制度のあり方の議論にも影響を与えうるものでした。薬価算定にあたっては、介護費用等の社会的価値の評価を投げかけました。

費用対効果評価では、加算分ではなく薬価本体が対象範囲となり、また介護費用に対する分析が含まれる可能性が出てきました。費用対効果評価の結果は、今後出てくるものであることから、どのような議論、結論となるかは注視していきます。

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