例年6月に公表(閣議決定される)「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」への仕込みが活性しています。2024年の骨太方針に盛り込む提言として、「がん遺伝子パネル検査等の最先端の医療に対して、保険外併用療養の対象とする」といった内容が自民党内から出てきているようです。
上記の記事もそうですが、この議論が「保険外併用療養」の拡大ではなく、「混合診療」の拡大ということで報じられていることについて、日本医師会が苦言を呈しています(こちら)。
保険外併用療養とは
厚労省のホームページに制度の説明があります。
保険診療との併用が認められている療養であり、「評価療養」と「選定療養」に大別されます。評価療養や選定療養に該当する部分については、保険ではなく、自由な価格設定下の支払いで患者さんはサービスを受けることになります。
がん遺伝子パネル検査が評価療養と選定療養のどちらの枠組みで実施可能となるかは現時点では明確になっていませんが、将来的な保険導入を目指す方向ではないか、すなわち、評価療養に該当する枠組みとして実施可能となる方向で議論が進むのではないかと想定しています。
なお、この厚労省のホームページには、混合診療に対する厚労省の基本的考え方も示されています。
混合診療では、患者負担の不当な増加、科学的根拠のない医療の助長、が生じる恐れがあるとして、一定のルールが必要としています。
がん遺伝子パネル検査の保険適用
こちらにがん遺伝子パネル検査のことがわかりやすくまとまっています。
2024年5月時点で、保険適用されるがん遺伝子パネル検査は、
- 標準治療がない固形がん
- 局所進行もしくは転移があり、標準治療が終了した固形がん
の患者さんに限定されます。
今回の提言は、標準治療を終了した患者さん以外の患者さん(最初の治療前の患者さん)にも、遺伝子パネル検査を保険との併用で受けられるようにすべき、ということになります。
保険外併用療養がこの検査に拡大されると、検査に関する費用は患者さん自身が負担することになりますが、その他の診療に関する費用には公的保険が適用されることになります。
混合診療に対する日本医師会の苦言
保険外併用療養と混合診療は全くの別物であり、混合診療は受け入れられないというのが彼らの主張です。日本医師会の認識は、両者を以下のように説明しています。
- 混合診療:「市場開放を志向。保険診療の範囲を制限して患者負担が増えても構わないという考え方に基づく」
- 保険外併用療養:「国民皆保険制度の中で保険診療を平等に提供することを原則。医薬品や高度な医療技術を一定のルールの下で、患者が自己負担によって活用できるもの」
したがって、混合診療は国民皆保険制度の原則を覆すものであるため、受け入れられないというのが日本医師会の主張です。
今回のがん遺伝子パネル検査も、保険外併用療養の枠組みで実施可能とすることには理解を示しています。
まとめ
日本医師会の主張のように、国民皆保険制度の原則は日本の誇れる仕組みだと思います。一方で、すべての治療を保険の中でカバーしていくというのは非常に厳しい状況になりそうです。したがって、誰もが一定水準の医療を受けられる保険制度を維持しつつ、実質的には公的保険でカバーできない範囲が拡大していく方向に進んでいくことが現実的な対応になると考えています。
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